BSR18参加報告(BSR東京事務所)

2018年12月17日
  • Ogi Kanaya portrait

    Ogi Kanaya

    Associate Director, Financial Services, BSR

 2018 年11月6日から8日、米国ニューヨークで開催されたBSRコンファレンス(2018年年次総会)について報告します。今年の総会は、800名を超える方々が参加し、ジョン・ラギー氏をはじめ、国際機関、企業、ジャーナリスト、活動家等、各分野のエキスパートによる講演がありました。本報告では、コンファレンスの概要と、初めてコンファレンスに参加して印象に残ったことなどをお伝えします。

 今年のテーマは「ビジネスの新たな青写真(A New Blueprint for Business)」で、全体を通し多くの方が、ビジネスの将来像を描くことの大切さを語っていました。総会の冒頭、BSRプレジデント・CEOのアーロン・クレマーは、「私たちは不確実で分断された社会に生きているが、目の前の大きな課題にたじろいでいては進むべき道を見失ってしまう」と、将来志向の重要性を唱え、「ビジネスの将来像は、3つの要素―〈価値観、公平性、環境の容量〉という基礎の上に描かなければならない」と述べました。
BSRはコンファレンスに合わせて「2030年のビジネス(Doing Business in 2030)」レポートを発行しています。このレポートの著者BSRフューチャーズ・ラボ ディレクターのジェイコブ・パークは、思考の範囲を拡げて様々な将来の可能性を想像するために、「2030年の4つのシナリオ」を紹介しました。彼が投げかけた「もしかしたら、将来の人は2018年を振り返り、当時はシンプルな社会だった、と言っているかもしれない」という言葉に、今、短期的な思考に留まっていてはいけないという思いを強くさせられました。

 コンファレンスでは、新しく、かつ難しい社会課題、例えば、セクシャル・ハラスメントや富の偏在等の問題が取り上げられ、「次に来る課題は何か」を考えるヒントを得ることができました。セクシャル・ハラスメントについては、米国の俳優でありセクシャル・ハラスメント防止の活動家でもあるデビッド・シュウィマー氏が自ら制作した映像を用いて、職場でのセクシャル・ハラスメントの一例を紹介し、セクハラがごく日常的な場面で起こり得るものであり、そのために被害者は声をあげることが難しい状況にあることを示しました。
また、#Me Tooムーブメントのきっかけとなった、ハーベイ・ワインスタインの性暴力被害を暴露したニューヨーク・タイムズ紙記者二名による対談では、次に注目される問題は何かについて話題が及び、その内の一人ジョディ・カンター氏は賃金格差を一例に挙げ、社会正義のための運動をメディアから起こすためには、個のケースや人物に着目した「ストーリー」が必要とコメントしていました。
また、『Winners Take All』の著者、アナンド・ジリッダーラダス氏の講演では、どんなに世界のエリートが社会的事業やCSRを進めても、世の中の富の82%は上位1%の勝者が得ているのが現実である、企業のCSR担当者は自社が社会的責任に反する目的で政治家に支払っている金額を知っているのか、との厳しい意見を呈していました。

 さらに、日本企業の視点からみて新鮮に感じたのは、「CEOアクティビズム」と呼ばれる最近の動きです。社会のあるべき姿や価値観について企業経営者自らが声を発することを指しますが、最近の特徴は、世論の分かれるような政治的トピックやセンシティブな問題についても、一歩踏み込んだ発言をしている点です。米国を中心にこうした動きが活発になっていることには複数の要因がありますが、著名な企業のCEOが、マイノリティや移民労働者の支援、表現の自由等について自身の立場を表明する例が多数みられます。
全体セッションでは、ニューヨーク・タイムズ紙記者デビッド・ゲレス氏が、「(企業活動の経済的インパクトが大きくなった昨今、)もはや経営者は会社の損益をマネージするという役割を超えて、社会の規範となる価値観を示すことが期待されている」と語りました。企業がアクティビズムを発揮する副作用として、社会における企業の影響力が大きくなり過ぎるのではないかと、私自身は気になったのですが、現実にグローバル企業のアクティビズムが活発になる中、今後、日本の経営者も難しい社会問題について立場を示すため判断を迫られるケースが多くなるだろうと感じました。
また、コンファレンスでは様々な業界のCEOが講演をされましたが、共通していたのは、社会をよくするために企業として提供できる価値とは何かという答えを明確に持っている点でした。EtsyのCEOジョッシュ・シルバーマン氏は、同社の仕事は社会的ミッションに基づいているとした上で、「企業が社会にインパクトを与え続けられるのは、我々にアカウンタビリティを要求してくれる市民社会のおかげである」と語りました。事業を通じた社会への価値をCEOが語ること、事業のあり方を考える過程でステークホルダーの声に耳を傾けることの大切さが伝わるコメントでした。

 その他、個別セッションでは、気候変動、ビジネスと人権、女性のエンパワーメント、AIと人権、ダイバーシティ、オートメーションによる雇用への影響、社会包摂(インクルーシブネス)といった課題についての議論、そして問題解決のアプローチとして、サプライチェーン・マネジメント、サステナビリティ・ファイナンス、シェアホルダー・アクティビズム、レポーティング、シナリオ・アナリシス等に関する議論など、盛りだくさんのテーマが扱われました。また、サステナビリティ課題の解決に向けた企業、政府、NGO等様々な主体の協働を生み出すBSRの新たなイニシアティブ、CoLabの立ち上げに際し、メンバーフォーラムでは、コラボレーションのアイデアについて活発な議論をいただきました。

基調講演の一部は、以下のリンクから視聴いただけますので、ぜひ、会場の様子を実感して頂ければと思います。

YouTubeチャネルにおいてご視聴いただける主な基調講演

  • ケイト・ブラント氏(Google社サステナビリティ―オフィサー)、キュンガ・パーク氏(ゴールドマン・サックス マネージング・ディレクター)、ジェイコブ・パーク(BSR マネージング・ディレクター)対談「Thriving in a Fast-Changing World: Scenarios for the Future of Sustainable Business」
  • デビッド・シュウィマー氏(俳優、ディレクター、プロデューサー)「#Thats Harassment」
  • アナンド・ジリッダーラダス氏(作家)「Winners Take All」
  • ヴェイサント・ナラシハム氏(ノバルティス ファーマCEO)
  • ジョン・ラギー氏(ハーバード大学 教授)「The Universal Declaration of Human Rights at 70」
  • デビッド・ゲレス氏(ニューヨーク・タイムス紙 記者)「When CEOs Speak Out: Business, Politics and the Culture Wars」
  • ジョシュ・シルバーマン氏(Etsy CEO)

なお、来年のBSR年次総会は、2019年11月12日-14日、米国カリフォルニア州サンノゼで開催予定です。

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