BSR19(BSR年次総会2019)サマリー: The New Climate for Business

2019年12月13日
  • Asako Nagai portrait

    Asako Nagai

    Managing Director, Technology Sectors and Asia-Pacific, BSR

米国カリフォルニア州サンノゼで11月12日~14日に開催された、2019年BSRの年次総会(BSR Conference 2019)には、民間企業や公的セクター、非営利団体から600人以上のサステナビリティ推進のリーダーたちが集まり、「The New Climate for Business (ビジネスにとっての新しい環境)」をテーマにさまざまな議論を行いました。

開幕スピーチ:
BSRプレジデント‣CEO アーロン・クレマー

Aron Cramer

年次総会は、BSRプレジデント・CEOのアーロン・クレマーによる以下の開幕の言葉で始まりました。「世界はいまだかつてなく早いスピードで動いており、今は2020年代に入ろうとしている重要なタイミングです。2030年に向けて、SDGs(持続可能な開発目標)の目標を達成できるのか、パリ協定の気候変動に向けた長期的目標に各国が力を合わせていけるのか、従来の資本主義がより多様な立場の人々を包含するようなシステムに移行できるのか。ここから始まる10年間の責任は大きく、私たちが直面しているチャレンジでもあります。」

ビジネスにとっての新しい環境(The New Climate for Business)

クレマーは続けて、「資本主義が目的に沿った社会システムなのか、疑問を唱える人が増えています。資本市場が適切に機能しているのか、人々の利益にかなっているのか、社会に価値を生むのか、こういった問いに対して、多くの人がそうではないと感じ始めているのです。今、米国では40%の人が社会主義を好む、7割のミレニアム世代の若者たちは社会主義を唱える候補者に投票する、という意識調査の結果が出ています。セールスフォースの共同CEOマーク・ベニオフ氏が、『従来の資本主義はすでに機能していない』と述べています。ビジネス界の人々も社会システムが機能していないことを実感しているのです。今後のビジネス界は、新たな環境変化に直面しており、こうした環境下では、ビジネスは特に以下の点に積極的に取り組むべきです」と述べました。

  • 自然資源と生物多様性の保護:水や資源などの自然資源がない中でビジネスの継続や成長はありえず、自然資源保護や種の保存が一層重要となっている。
  • 人権と倫理の原則に沿った新しいテクノロジーの開発と応用:AIなどデータの利活用に関わるイノベーションや新しいテクノロジーの活用は一般市民からの信頼を失っている。テクノロジー企業や、そうした技術を活用する企業には、人権と倫理の原則に沿った取り組みがより重要となっている。
  • ネット・ゼロ・カーボンへのコミットメント:今年だけでも100社以上が2.0°Cのみならず、1.5°Cへのターゲットに向けた宣言を行っており、ネット・ゼロ・カーボンに向けた社会モデルの実現が重要となっている。

クレマーは、「こうした課題の解決に向けてビジネスが果たす役割は大きく、企業からの高いビジョン、目的(Purpose)や、協働がなければ課題解決は難しい。ぜひ、企業にはリーダーシップをとって行動して頂きたい」と述べて、スピーチを終えました。

印象に残った3名のメインスピーカーのスピーチ

総会ではさまざまなスピーカーによるスピーチがありましたが、特に今年の総会で印象に残った方3名を紹介します。

Beth A. Brooke-Marciniak

EY社の取締役で元公共政策のグローバル・バイス・チェアである、ベス・ブルック・マーシニアック氏は、52歳でゲイからカミングアウトした際の話を共有し、いかに職場や社会におけるダイバーシティとインクルージョンが重要であり、人々を勇気づけるかについて彼女の経験を共有しました。ベス・ブルック・マーシニアック氏のセッションはこちらからご覧いただけます。

Shannon Watts

「Moms Demand Action」の創設者であるシャノン・ワッツ氏は、主婦で子育てをしているときに起こった米国コネチカット州の小学校での銃乱射事件を発端に、銃による暴力に反対する活動を始めました。2012年にワシントンDCで銃規制の改正を呼びかける団体を発足し、現在では、全州に支部を持っています。今は全米21州で、銃購入者に対するバックグラウンドチェックの義務化に加えて、警察や家族が他者に危害を与える可能性がある人から銃を取りあげるレッドフラッグ規制などの銃規制の制定に成功しています。シャノン・ワッツ氏のセッションはこちらからご覧いただけます。

Sam Liccardo

また開催地であるサンノゼ市のサム・リカルド市長による同市のサステナビリティの取り組みも非常に興味深いものでした。「サンノゼ市はシリコンバレーの中にあり、イノベーションの中心となっていることを誇りに思っています。イノベーションは市にとって最も重要な要素ですが、そうした中での大きな課題は、加州ベイエリアで最も高い家賃と住居地域であることです。経済成長で高騰した住居クライシスによって、サンタクララカウンティだけでも約9000人のホームレスがいます。市では、グーグル、アップル、フェイスブックやシスコといった企業とパートナーシップを組んで、住居信託などの支援を差し伸べています。経済格差が拡大しており、どのように格差を解消していけるのかが重要な課題です。またサンノゼ市民の4割が海外で生まれており、多様性があるコミュニティをどのように成功させていくのかも考えています。」 

サンノゼ市は気候変動への取り組みを積極的に行っており、米国のトランプ大統領がパリ協定から脱退すると表明した際、400余りの米国の市長が行った”We are still In”という表明に賛同しています。サンノゼ市は、「コミュニティ・チョイス・オブ・エネルギー・プログラム」を実施し、一般家庭や事業者にエネルギー源の選択肢を与えています。その結果、エネルギーのグリッドにおける化石燃料比率は、当初の65%から実施後わずか1年半で20%まで抑えることができました。これを更に2021年までにゼロに達成する目標を挙げている」とリカルド市長は述べています。同市長のセッションはこちらからご覧いただけます。

3名ともに、課題へのコミットはもちろん、これまでにない実行力を感じました。特に最後のサンノゼ市長のスピーチでは、アメリカが連邦レベルでは後退している気候変動や格差問題に、市レベルでさまざまな挑戦と実行を行い、決して後退はしていないことを実感することができました。

  • 総会のビデオのご案内:
    上記スピーチを含むほぼすべての総会セッションは、BSRのYouTubeチャンネルで放送されています。
  • 来年の「BSR20」は、米国ニューヨーク・ブルックリンで2020年11月10日-12日に開催予定です。

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