ビジネスと人権:国別行動計画に向けたコンサルテーション会合を開催

2019年6月20日

2019年6月6日、外務省の主催で「ビジネスと人権に関する国別行動計画(National Action Plan:NAP)に関するコンサルテーション会合」が開催されました。当会合は、ビジネスと人権に関する国別行動計画(NAP)に係る作業部会によるコンサルテーションを目的とした会合で、今後決定される日本における行動計画策定プロセスにおいて、計画を盛り込む優先分野を特定していく活動に繋がります。(会の概要は下記をご参照ください。)

国連ビジネスと人権指導原則は、2011年の国連人権理事会にて承認され、専門家で構成される国連ビジネスと人権作業部会が設立されています。同作業部会では、当原則の普及、実施にかかる国別行動計画作成を奨励しており、これを受けて2013年から、英国、イタリア、オランダ、ノルウェー、米国、ドイツ、フランスなどを含む20カ国以上がすでに行動計画を公表しています。日本でも、国別行動計画を策定することが急務となり、その活動が進められています。

なお、日本企業も含めて多くの多国籍企業にとって、人権課題に取り組むことはビジネス上不可欠となっており、すでに国連ビジネスと人権指導原則に沿った取り組みが先行しています。その中で、今後決定される日本の国別行動計画の内容は、多国籍企業だけでなく、より広範囲に日本企業全体の活動に影響を及ぼす可能性があります。 BSRは、今後各企業が、本計画の内容や議論の過程について情報収集を行い、関連ステークホルダーと意見交換をするなどして、自社にかかわる重要な人権課題を理解し、リスク低減に取り組んでいくことが重要と考えています。

6月6日コンサルテーション会合の概要:

当会合には、関係省庁、ステークホルダー団体、専門家、企業・その他団体(約15企業・団体)、国際機関などからの参加があり、BSRもオブザーバーとして出席いたしました。

冒頭、外務省総合外交政策局人権人道課杉浦課長から、行動計画に係る進捗状況に関する報告があり、続いてOECD責任ある企業行動ユニット長クリスティーナ・テバー・レス氏、ILO駐日事務所プログラム・オフィサー田中竜介氏、国連ビジネスと人権に関する作業部会委員ダンテ・ペシュ氏からの発表や意見交換がありました。

OECDレス氏からは、OECD多国籍企業行動指針の実践を支援するツールとして開発された「責任ある企業行動のためのOECDデュー・デリジェンス・ガイダンス」が、人権デュー・デリジェンス実施を支援する実践的なツールであること、6分野におけるデュー・デリジェンス、それぞれのステップにおける導入に対する推奨事項についての説明がありました。また、OECD多国籍企業行動指針のNational Contact Point(各国連絡窓口*)は、国連ビジネスと人権指導原則の救済措置の一環として重要な機能を果たすとの見解も示されました。

ILOの田中氏からは、ILO中核労働基準が国別行動計画にとって重要な項目であること、作業部会委員ダンテ・ペシュ氏からは、作業部会が国連ビジネスと人権指導原則の普及や実務的な導入支援に注力していることや、国別行動計画の策定についてはガイダンスを発行している旨、またNAP策定プロセスについては、透明性が重要であり、政府、市民社会、業界団体などの連携が必要であること、そうすることで自らこの計画を所有するという意識が芽生え、信頼が生まれる、といった説明がありました。

また、人権デュー・デリジェンスについての法整備の必要性について質問があり、レス氏からは、「フランスでは、すでに多くの情報開示が義務化しており法制化が一般的となっている。一方、他の国では、投資家や市民団体が企業に要求していく、という流れもある。法制化することによって企業の取り組みや取締役会の理解が進む面もある。フランスでは法規制を導入しているが、必ずしも他国でうまくいくとは限らない」との見解が示されました。

現在までの経緯:

日本政府は、2016年末、日本における行動計画の策定を決定し、「SDGs アクションプラン2018」および「未来投資戦略2018」等にその旨が盛り込まれています。2018年には行動計画策定の第一弾としてベースラインスタディ(現状把握調査)を実施しました。当スタディーは、企業活動における人権に関する取り組みや、法制度について現状を把握する調査で、ステークホルダー(経済界、労働団体、市民社会など)との意見交換会を計10回実施しています。意見交換では、公共調達、法の下の平等、労働(児童、外国人労働者含む)、救済へのアクセス、国際約束(投資協定)、サプライチェーン、中小企業などのテーマが議論されました。

ベースラインスタディに対しては2019年1月末までパブリックコメントを実施して、計37件のコメントが提出されています。パブリックコメントの主な内容は、ビジネスと人権全般、行動計画の採択プロセス、公共調達プロセスへのビジネスと人権の視点の組み込み、ODA・開発金融、投資協定における人権配慮、サプライチェーン、中小企業、人権デュー・デリジェンスを含む企業が社会的責任を推進するための取り組み、救済措置、法のもとの平等、プライバシー、児童の権利、労働、消費者等となっています。

ご参照:ビジネスと人権に関する日本の行動計画について
https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page22_001608.html

今後の予定:

日本政府は、2019年前半に国別行動計画に盛り込む優先分野を特定し、2019年後半に行動計画原案を作成、2020年半ばに行動計画を公表する予定です。

*注) 日本の各国連絡窓口は、外務省、厚生労働省、経済産業省の三者で構成されています。OECD多国籍企業行動指針(外務省サイト)をご参照ください。

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