新条約で暴力とハラスメントの撲滅が企業の義務に

2019年7月1日
  • Aditi Mohapatra

    , BSR

  • Lauren Shields

    , BSR


2019年6月21日、国際労働機関(ILO)は圧倒的多数の投票結果で「ビジネスの世界における暴力とハラスメント禁止条約」を採択しました。これにより私たちは世界中のすべての労働者を暴力や嫌がらせから保護するための、重要な一歩を踏み出すことになりました。

企業は、この条約の採択は、以下の現実に対する警鐘だと認識する必要があります。

  • 今日、ビジネスの世界で、あまりにも多くの人々(特に女性たち)が継続的に暴力やハラスメントを体験しているという厳しい現実があること。
  • ステークホルダーの期待が、職場における暴力やハラスメントの対処のみならず、暴力や嫌がらせを発生させないための積極的な取り組みへと根本的に変化したこと。

今回初めてビジネスの世界で、暴力とハラスメントに対処するための国際的合意に基づく基準とガイダンスが設けられ、企業と政府の責任に関して高い水準が課されることになりました。この条約の保護対象者には、企業の従業員、グローバルなサプライチェーンで働く工場や農場の労働者、非正規労働者、求職者など様々な分野の労働者が含まれます。また、条約は通勤途中のハラスメントのリスクなども認識しながら、職場という壁を越えて「ビジネスの世界」全体を見据えています。

条約が定める企業の具体的な対応は、対象となる国や業界に委ねられますが、企業に対して暴力やハラスメントへの取り組みに関する一層の努力が期待されるのは明らかです。ここではBSRの「Act、Enable、Influence(行動、可能性、影響)」のフレームワークを活用して、企業の取り組みを推進するための方法をご紹介します。

ACT (行動)

企業は、セクシャルハラスメント撲滅に貢献するプログラム、ポリシー、サービスや商品を導入することで問題に対応することが可能です。企業にとっての最初の一歩は、ジェンダーに基づく暴力とハラスメントに対処するため、バリューチェーン全域での取り組みを精査することです。 BSRは、新しいILO条約の定めに沿って、次の3つの分野に存在するギャップや乖離を企業が理解するためのツールを開発しました。

  • ポリシー:
    条約では、嫌がらせや暴力に対処するための職場ポリシーを、雇用主の責任の一部であると定めています。条約に付属する勧告には、内部告発者を保護するための保護措置や苦情処理に関する情報など、どのような項目を含めるべきかについてのガイダンスが含まれています。
  • リスクの特定と評価:
    条約は、暴力とハラスメントに関して、危険要因とリスクを見極めることを雇用者に求めています。まず企業が取り組むべきことは、自社の人権デュー・デリジェンスと国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の「ビジネスと人権に関する指導原則」の最新レポートに記載されているジェンダーに関する事項に示された人権デュー・デリジェンスのあり方を照らし合わせて、内容をしっかり統合させることです。
  • トレーニング:
    条約では、雇用者に対して暴力とハラスメントに関する情報の提供とトレーニングを実施して、「ハラスメントにさらされる危機が高い」部門や役割に対する具体的な措置を講じるよう求めています。

BSRのツールは、企業がこれらの領域について徹底した分析を行い、企業活動を改善するためのお手伝いをします。

企業は、ビジネスパートナーと協力して適切な対策を導入することによって、ハラスメントや暴力といった課題に取り組むことができます。

Enable (可能性)

企業は、ビジネスパートナーと協力して適切な対策を導入することによって、ハラスメントや暴力といった課題に取り組むことができます。 この取り組みは、弱い立場の労働者を多く雇用する縫製、農業、その他軽工業のサプライチェーンにとって特に重要です。最近一層増えてきましたが、資料では、暴力と嫌がらせがこれらのセクターや調達国で広く蔓延しており、女性労働者が特に弱い立場にあることが示されています。

  • BSRのHERrespectプログラムを介して、既に多くの企業がサプライチェーンにおける暴力とハラスメントに対処するための措置を取っています。HERRespectは、グローバル・ブランドと彼らのサプライヤーを結び付け、職場主導での取り組みを推進し、男女の労働者が管理者と協力して、より協力的でジェンダーの公平な関係を構築する包括的なアプローチです。また HERrespectプログラムでは、職場でハラスメントが発生した際の効果的な現場対応についても強化していきます。バングラデシュ、エチオピア、インド、ケニアでの導入を通じて、このプログラムの効果が実証され 、今後、取り組みの規模を拡大するための準備が進んでいます。
  • また企業は、女性のためのビジネス・アクションHERproject などのネットワークを通じて、同業他社と協力しながら、ビジネス全体に関わるジェンダーに基づく暴力の複雑な問題に取り組み、新たな解決方法の策定と実施に向けた提携を行っています。
  • Business Fights Povertyは、「企業はジェンダーに基づく暴力を撲滅するために、どのような役割を果たせるか」という課題を掲げています。この活動を通じて、Business Fights Povertyとそのパートナーは、アクションにつながるビジネスの仕組み作りや効果的実践のケース・スタディに役立つ情報を収集しています。今後、更にこのサイトで、多くの詳細情報を公開していく予定です。

ブランドの信頼性やマーケティングの専門知識、リーチ、主要インフルエンサーへのアクセスなどを駆使して、企業は社会またはジェンダーに対する有害な認識を覆すために、他にはできない独自の行動を起こすことができます。

INFLUENCE(影響)

企業はまた、その影響力を駆使してコミュニケーション戦略を活用しながら、ハラスメントやジェンダーに基づく暴力に対処するために、より大きなコミュニティに影響を与えることができます。

  • 企業は、ブランドの信用力、マーケティングの専門性、幅広い影響力、有力インフルエンサーへのアクセスなどを駆使することで、女性に対する暴力やハラスメントを容認するような有害な社会やジェンダー認識を覆すために、独自の立場で行動を起こすことができます。最近のジレットの広告は、この戦略の素晴らしい事例です。このコマーシャルを通じて、ジレットは男らしさの有害な観念について、意義ある対話を呼びかけています。
  • また企業は、公共機関が新しいILO条約で義務付けられたさまざまな法律や政策を施行する際に、政府と協働し、女性労働者の強い保護を主張することができます。

今後、暴力、嫌がらせ、女性のエンパワーメントに関するポリシーの強化を目指すBSRメンバー企業の皆さんは、ぜひ私たちのチームと連携してください。 BSRはこの秋、ウェビナーを開催して、パートナーの「Business Fights Poverty and CARE」と共に新しいILO条約をさらに深く精査していきます。登録はこちらからどうぞ。

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