日本におけるESGと社会的責任投資の新時代:「RI アジア ジャパン2018」東京で開催

2018年4月18日
  • Asako Nagai portrait

    Asako Nagai

    Managing Director, Technology Sectors and Asia-Pacific, BSR

  • Karlyn Adams

    , BSR

2016年、日本で運用されている総資産における社会的責任投資(SRI)の比率はわずか3.4%であったのに対し、EUでは52.6%、米国では21.8%でした。しかし、2016年から2017年にかけて日本でのSRIの成長率は242% と急伸し、総額約1兆1300億ドル(2017年「持続可能な投資フォーラム」報告書)になりました。一体なぜこのようなことが起こったのでしょうか?

近年、日本では、環境、社会、ガバナンス(ESG)の各要因を、企業の投資戦略に統合する動きが大きく前進しています。日本企業にとって、持続可能性の取り組みのための支援環境が作られてきており、この取り組みはますます増え、一般的な標準になってくると思われます。世界第3位の経済大国によるシフトは、日本での事業だけでなく海外のバリューチェーンにも影響を及ぼすため、海外に本社を置く企業も注目すべき変化になっています。

要するに日本政府は、日本企業に対して、持続可能なビジネス慣行への期待を明確にし、投資家が、重要かつ広範なESG課題を理解し、社会的対話を可能にすることとその仕組みのための支援を提供しているのです。

これまでの日本の変化と将来のロードマップは、「伊藤レポート2.0」として知られる経済産業省の報告書に要約されています。 2014年に発行された最初の「伊藤レポート」は、日本における長期的な資産管理文化の欠如と、投資家の対話の欠如の双方がもたらす課題を示しました。それに呼応して、日本政府はこの問題に体系的なアプローチをとり始めています。

発行の翌年(2015年)には、金融庁(FSA)の支援を受けて、東京証券取引所が日本の「コーポレートガバナンス・コード」を公布し、日本の上場企業に効果的なコーポレートガバナンス基盤を提供、中長期的な企業価値の向上、持続可能な企業の成長が期待されています。

また同2015年、約1兆3000億米ドルの運用資産を有する世界最大の年金基金である日本政府年金投資基金(GPIF)が国連責任原則(UNPRI)に署名しましたが、その影響は日本の投資環境においても、世界においても非常に大きく、触媒のように多くの変化をもたらしました。ESGを司るアセットオーナーが、その舵を切る意志を伝えれば、いかに素早く市場変革ができるかという証左となりました。

また、投資家と企業双方にかかる、責任ある投資と持続可能性に向けた圧力は、日本政府からだけでなく市民社会からも生じています。ここ数年、日本の国際NGOと国内NGOは、気候変動、石炭/化石燃料への投資、紙/パルプとパーム油の調達を含むさまざまな課題について懸念を大きく表明し始めています。

今年の責任ある投資家コンファレンス「RI アジア ジャパン」は、4月10日‐11日に東京で開催されました。このイベントは、日本の投資環境の変化を大きなテーマとして掲げ、国内外から多くの聴衆が参加しました。ディスカッションでは、これまで行われていたような「投資家がESGを統合すべきかどうか」という議論を超えて、いかに債権やパッシブ運用戦略のより初期の段階でESG統合ができるかといった「方法」に焦点が当たりました。この変化だけでも、数年前まで見られた日本の閉ざされた金融エコシステムからの大きな進展が表れています。

また、ESG投資戦略を、国連持続可能な開発目標(SDGs)に結びつけ、オポチュニティ機会と捉える枠組みは、日本の投資家や企業によって急速に受け入れられています。 GPIFの理事兼最高投資責任者(CIO)の水野弘道氏は、過去2年間で日本のESGに関するニュース記事は4倍に増えたと述べていました。

このように顕著な前進があったものの、RIアジア・イベントとBSRが行ったサイドイベント/講演会の両方で、日本の投資家は、ESG事項を投資戦略に正しく組み込む方法について、より深い指針を求めていることは明らかでした。イベントでは以下のような意見が日本の投資コミュニティから表されています。:

  • 日本のメインストリーム投資家にとって、ESG投資は新しい分野であり、長くESGを投資戦略の中心に統合してきた海外のプレイヤー(AXA、Clearbridge、Wellington、BNP Paribas、UBSなど)から多くのことを学ぶことができる。
  • 企業のESGレビューでは、主要なESGデータ/格付けプロバイダの情報がよく使用されている。投資家はこのデータを出発点として活用すべきである。社内のアナリストは、これらの情報を使って独自の視点でより深い研究と分析を行うことができる。また企業と直接対話することも必要である。
  • 社会的責任投資は、統合とエンゲージメントだけでなく、革新的な製品の形をとることもできる。 SDGの目標に沿ったESG課題に対処するコミュニティ特有の債券やインパクト投資を含む革新的な金融商品を開発することにより、様々な投資家を引き付ける新しい市場機会が生まれる可能性がある。

今後数年間は、日本の投資家やビジネス界が、SRIをどのように確立し、浸透させていくかそのストーリーを語っていく良い機会になると考えています。そして、アジアや世界におけるESGのリーダーシップの確立に寄与することを願っています。 BSRでは、引き続きこの分野での新しい展開を注視し、金融サービスセクターを中心に会員企業とともに活動を支援・推進してきます。

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