企業のレジリエンス向上のために、いかにTCFD提言を実行するか

2018年7月23日

「気候変動」は私たちの時代における重要な課題の一つです。気候変動がもたらす複合的な影響は、ビジネスの重要かつ新たなリスクと機会を生み出しています。主要国の中央銀行や金融規制当局で構成する金融安定理事会(FSB)が2015年に設置したTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース:Task Force on Climate-Related Financial Disclosures)は、すべての株式公開企業に対して、企業が有する気候関連リスクとその対応策について、主要な報告書で開示するよう求めています。

気候関連リスクは体系的であり企業内すべての部門にまたがるため、TCFDは年間売上高10億米ドルを超える企業に対して、これらのリスクが現実となった場合に備えるため非財務報告書上でのリスク開示を提言しています。現在、TCFD提言の対応については2つの目的があります。

  1. 社外のステークホルダーへの報告
  2. 気候変動シナリオ分析を通じたレジリエントな企業戦略の策定

最初の目的についていえば、TCFD提言は、断片的な気候関連の報告をCDP、GRI,やSASBなどと連動させ一体化させる可能性を持ち、サステナビリティ業務の従事者に多くの益をもたらします。すでに290企業がこの提言を支持することを公言し、18企業が今後3年間で提言の実用に向けて実践することを明言しています。

しかしTCFDに参画する企業にとっての最大の付加価値となるのは、2つ目の目的であるシナリオ分析を通じたレジリエントな企業戦略の策定です。

米国の独立系発電会社NRGエナジー社バイスプレジデント、ブルーノ・サルダ氏のコメント: 「TCFD提言は企業の気候変動に関連するリスクの精査とそのコミュニケーション促進に優れた効果を発揮します。シナリオ分析によって、リスクの軽減のみならず、組織の戦略的柔軟性と適応による機会創出を行い、将来への前進を確かなものにするからです」

シナリオ分析は、不確実な状況下における意思決定を向上させるために、すでに何十年も前から政府や企業によって活用されてきました。企業は、単一予想をベースとした決定ではなく、シナリオ・プランニングを使いながら、より適応力が高く弾力性に富む戦略を作るために、より妥当で実現可能な未来案を検討します。

気候変動の物理的影響を統計的に見通すことは可能ですが、それらの二次的あるいは三次的な影響を具現化することは困難です。例えば、干ばつと異常気象が社会・政治情勢を不安定にし、結果大規模の人口移動を引き起こすという説に妥当性はありますが、それは正確に予想できるものではありません。このような連鎖の影響が重大な結果を引き起こすという前提をもとにして、企業はシナリオ分析を使った検討を始めなくてはなりません。

以下はTCFD提言を投資家と戦略性向上の双方に役立つよう実施するための提案です。

1 まずは企業の戦略的レジリエンス向上を目的としてシナリオ分析に取り組む

気候に関するシナリオ分析の最も重要な目的は、気候影響の不確実性に取り組み、企業の将来に対する潜在的盲点に対応しながら、ビジネス戦略をより強固で変化への対応力のあるものへと修正することです。BSRは企業が使用しているシナリオとそこに含まれる主たる仮説、そしてビジネスに対するリスクと機会についての情報を公開するべきだと考えています。同時にその開示が、社内における公正で意欲的なビジネス戦略への評価を妨げるべきではないと考えています。

EBRD(欧州復興開発銀行)とGlobal Centre of Excellence on Climate Adaptation(世界気候変動卓越センター)が述べるように「シナリオ使用を開示する最終的な目的は、企業が気候変動に対して意義ある取り組みを行い、広範囲にわたる成果を目指していること、そして自己防衛的、消極的ではなく状況に素早く対応し積極的に行動していることを公表し投資家からの信頼を得る事」なのです。

2 気候リスクと機会を広範囲に捉える

BSRは起こりうる潜在的リスクと機会に対して包括的な視点をもつことを企業に求めています。当初、TCFD提言に関する話し合いの多くは、二酸化炭素排出量の高い企業が2℃シナリオを実践するにあたり、その移行プロセスで直面するリスクに重点が置かれていました。しかし、たとえ温暖化がそのレベルで抑えられたとしても、同様に破壊的な影響となりうる気候変動の物理的リスクに対しても検討がなされるべきなのです。

気候変動に伴う最も深刻な影響の多くは、物理的な影響によって引き起こされる雪だるま式連鎖で、モデル化や数量化が困難な社会、経済、政治変動です。例えば、気候変動による人口移動、政治的紛争、経済的混乱や様々な病気の発生は社会とビジネスに深刻な影響を与えます。シナリオ分析は、現状のモデルには簡単に組み入れることのできないこれらのリスクと機会について考慮するための重要な機会を提供します。

3 ビジネスに適合したシナリオを選択し、さまざまな資料から収集されたデータを活用する

財務情報開示における比較可能性も重要ですが、最終的には個々の企業が有する独自の状況に適合したシナリオ分析が最も効果的です。エネルギー企業にとっては国内の気候関連規則の不確実性が大きな懸念かもしれませんし、消費財企業にとっては農作物に対する気候影響の物理的不確実性が重要になるでしょう。

IEAの「New Policiesシナリオ」や「持続可能な開発シナリオ」などそれぞれの情報には独自の強みと限界があります。すべての企業が同じ仮説を用いて同じシナリオを使用すれば、私たちは気づかずして経済全体にわたるリスクのようなものを造りだしてしまうかもしれません。TCFD提言はこれを阻止することに取り組んでいます。多様なシナリオを使用することによって、一つのやり方で全体が同様の誤りに陥るという可能性を縮小することができるからです。

BSRは、シナリオ分析に企業が2℃世界と高気温世界に関するシナリオを最低1つ含めることに賛同しますが、企業はそれぞれのビジネスに最も関連性の深い危機的な不確実性のためのシナリオを選択するべきだと考えています。体系的な気候リスクの不確実性に取り組むにあたり、妥当性があり意欲的であること、そして崩壊の可能性を無視することで誤った安心感を与えてしまわないことが重要です。

TCFD提言の最終的な目的は、企業が気候変動による不確定な影響への理解を深め、そのための準備を行うことにあります。企業は単に情報開示の行使だけでなく、企業の戦略的弾力性を強化する重要な機会と捉えて実施に取り組まなければなりません。

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