スウェーデン・テリア社「人権影響アセスメント」が教える4つの知見

2017年7月12日
  • Dunstan Allison-Hope portrait

    Dunstan Allison-Hope

    Senior Advisor, BSR

7月、スウェーデンに本社を置く通信事業者テリア社は、BSRが同社のスウェーデンとリトアニアの子会社を対象に実施した「人権影響アセスメント(以下:HRIA)」を公表しました。これに先がけて同社は、同じくBSRがアゼルバイジャン、ジョージア、カザフスタン、モルドバ、タジキスタン、ウズベキスタンのテリア子会社を対象に実施した類似のHRIAのサマリー版を公表しています。

テリア社による公表に関して、まず特筆すべきは、同社が人権への影響とその対処方法を巡って、情報を公開するという透明性の担保をとても重要視している点です。ここまで高い透明性を持つことは「ビジネスと人権」という分野において依然めずらしく、私たちはテリア社の姿勢が先進事例として広く参照され、多くの会社がこれに追随することを期待しています。

これらのHRIAは、膨大な作業の賜物です。BSRとテリア社はその作成過程で、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」の適用方法を巡り、多くの新たな知見を得ることができました。そのうち4点を以下にご紹介します。

ステークホルダーと権利者の関与が不可欠:

8件のHRIAを実施するにあたり、BSRとテリア社は人権擁護団体、提唱者、政策決定者、外交官、規制当局を含む、約100のステークホルダーや権利者と会って話しました。その中には通信事業の専門家も、そうでない方も含まれます。関心分野として幅広い人権アジェンダを注視する方もいれば、プライバシー、LGBTQの権利、ジェンダーの平等といった特定の分野に特化した方もいました。企業はこうした外部の第3者との関わりを躊躇することもありますが、正しい準備をすれば、議論を通じて貴重な知見を得たり、HRIAの提案を成功裏に実施するために不可欠となる信頼関係を築くことができることが分かりました。

人権課題を巡る企業の透明性は影響力を持つ:

近年、テリア社を含む多くのインターネット・通信事業者が、表現の自由とプライバシーへのアプローチに関する透明性を大幅に高めてきました。ユーザーの人権侵害につながり得る政府の要求への対応に関しては、特にそれが顕著です。このような点を扱ったレポートは長く詳細になる傾向があり、誰にも読まれずにネット上で放置されると想像したくなりますが、実際にはそれとは逆のことが起こっています。テリア社のHRIAだけでなく、BSRが他のインターネット・通信事業者と取り組んだHRIAも、現地の人権擁護団体や提唱者に驚くほど活用されているのです。例えば、彼ら自身の方針や立場を策定するうえで、こうしたレポートは広く参考にされています。

業界に見合ったレンズが必要:

国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」は、あらゆる業界の全ての企業を対象に書かれているため、特定の通信企業への適用にあたっては、業界知識が必要となる新たな質問が出てきます。例えば、現地の法規や許認可に従うことが人権侵害につながり得る場合、通信事業者はどのような責任を負うものか?通信事業者のサービスを通じた表現の自由の行使の多大な恩恵と、それに伴うリスクのバランスをどのように取るべきか?法の支配が強いスウェーデンのような国で通信関連の法規が変更された場合、同様の法的保護の確立されていない国がこれに倣って同じ変更を適用したときに、どのような意図せざる結果が起こり得るか?人工知能やモノのインターネット(IoT)といった革新的な技術は、人権リスクにどのような影響を及ぼし得るか?

グローバル・ネットワーク・イニシアチブ(GNI)のような業界組織は、こうした質問が通信事業者に持つ意味を探る上で役に立つでしょう。

倫理と人権の間には強いつながりがある:

「汚職からの自由」は直接人権に関わりませんが、全8カ国の評価を通して明らかになったのは、「倫理」、「汚職」、「人権」の間に強い関連があるということです。倫理的な違反行為、例えば健康・安全面の対策が乏しく基準を満たさないサプライヤーの選択は、人権に重大な影響をもたらす懸念があります。倫理違反と人権侵害のどちらも、社会でもっとも弱い立場にある人々が被害者となる傾向があります。HRIAを完了したとき、私たちは倫理、汚職、人権の管理に向けたより包括的なアプローチの必要性をますます強く実感しました。さらに一歩進んで、「汚職からの自由」を人権と見なす論理も成り立つと考えています。

私たちはテリア社によるHRIAの公表が、三つの主要な役割を果たすことを期待しています。第一に、事業判断に人権を統合させることを目指すテリア社の積極的な姿勢が妥当と裏付けられること。第二に、対象となった8カ国において、人権を巡る議論の深化に寄与すること。第三に、HRIAの実施方法について、より幅広い「ビジネスと人権」コミュニティの参考となることです。

実際、私たちBSRも、自分たちの仕事について透明性を持つことによるリスクを取っています。私たちは「ビジネスと人権」分野における最も先進的な手法を取り続けることにコミットしており、このアプローチは透明性と建設的な批判によって改善できるものと信じています。テリア社もBSRも、皆さまからのフィードバックと議論をお待ちしています。

テリア社のHRIAのケーススタディ全体はこちら

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