未来思考はグローバリゼーション4.0の形成にどのように役立つか

2019年1月22日
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    Aron Cramer

    President and CEO, BSR

今年参加した世界経済フォーラム年次総会2019 World Economic Forum’s Annual Meeting 2019では、「グローバリゼーション4.0モデルの開発」という野心的な挑戦がアジェンダとして提起されました。

この挑戦は歴史的に重要なポイントで現れました。過去30年にわたり、世界経済は計り知れない程の人間の進歩を可能にしました。現在、歴史上初めて人類の半数以上が中流階級と見なされています。しかし、既存のビジネスモデルは限界を迎えているようです。所得格差が拡大しており、加熱したポピュリストの挑戦が市場経済を揺さぶります。気候変動と天然資源の枯渇は人的・経済的混乱を引き起こし、さらに社会的・政治的な不安定を生み出しているのです。技術革新の速度は、合法的で倫理的なフレームワーク構築に向けた新しい思考や、新たなツールが人々の共有価値に基づいて使用されることを必要としています。

これまでの変化が、根本的に異なる一連の問題を生み出したように、前進するための道を理解し具体化するために、私たちには根本的に新しい思考が必要です。この「未来思考(Futures thinking)」という考え方は、グローバリゼーションの次の時代に向けた戦略の情報提供と検証に不可欠なツールです。

相互に関連し迅速に変化する私たちの時代に、複数のシナリオは異なる可能性を導き出します。世界が今後どうなるかを予測するのではなく、変化の原動力に関する研究と、不確実性の主要因がどう生じるかの推測を組み合わせ、代替となる未来ストーリーを提示します。複数のシナリオは、企業が意志決定を行う際の社会的および政治的背景、及び社会がその価値を適応するルールの考察に役立ちます。これらのシナリオは、伝統的な分析アプローチを補完するように設計されており、真に破壊的な変化が予測できないリスクを持ちながらも、正確さを提供します。

Four scenarios

今日既に、数十年後の未来を定義するような多くの構造変化が散見されます。気候変動は私たちの自然界と経済を再形成していくでしょう。また変化する仕事のありようと新しい技術の出現は、膨大な機会と深いジレンマの双方をもたらすでしょう。しかしこれら変化の具体的な姿とタイミングは予見できません。干ばつが増えることで食料供給が脅かされ、増加する激しい嵐によって世界のサプライチェーンが混乱することは分かりますが、どこで、どのように起こるかは予測できません。私たちは自動化が雇用の創出と破壊の双方をもたらすことを知っていますが、破壊の速度や実現味のある新たな好機を予測することは困難です。今日、遺伝子を書き換えた赤ちゃんをめぐる世間の激しい論争を通じて、様々な異なる原理が様々な状況で適用されており、技術の進歩が深刻な問題を生み出していることに気づきます。

今年のダボス会議のビジョンをまとめるにあたり、世界経済フォーラムは、「より広い関わり方と高い想像力」を駆使して、私たちの時代のグローバリゼーションの再定義に挑戦しました。私たち共通の未来に起こりうるシナリオを検討することは、そのための非常に重要な手法です。一例として、BSRの2030年の仕事レポートDoing Business in 2030 に記載されたシナリオは、私たちの情報と意思決定がグローバルな合意形成、あるいは深い分裂のどちらにどのように反映されるかを考察した内容です。

これは私たちの未来が形成されていくに沿って、浮かび上がる断層線の一つで、統合する未来と分断する未来の双方を示しています。私たちの世界には統合する力があります。テクノロジーはより大きな透明性をもたらし、都市化現象によって人々の体験はますます類似化しています。同様にプライバシー規則と医療倫理の分野における異なった価値観の適用、国家は都市や地域への分権を進めると同時に国家主義的見解を主張するなど、社会を分断する力も見てとれます。

未来が、多様なモデルを包含する現実と世界的な合意の必要性の両方を反映させる可能性もあります。実際、グローバリゼーション4.0が、多様な政治制度の下、さまざまな文化的規範や予想を反映し、異なる経済目標や条件を伴って無数の実験を通じて定義されることは間違いないでしょう。

大変革の時代には、収束する前(もしするのであれば)に、さまざまな形の多様な進化が見られることがあります。そして同時に、グローバルにまとまった協力体制が必要な気候変動の危機、移民の増加、テクノロジーの使用など、人間としての意味を問わざるを得ない程の重要な対応も切実に求められているのです。

ビジネス、政府、市民社会の意思決定者たちは“多言語”を理解し、起こりうる未来領域で組織を運営するための準備が必要です。異なる分野の組織間の境界線は、前進への障壁となり得ます。2030年の仕事レポートDoing Business in 2030 のシナリオに書かれているように、“急速な技術的変化の中で今後も人類が地球上で繁栄していくのであれば、私たちは市民社会、政府、そしてビジネス間の関係のあり方を変える必要があります”。

グローバリゼーション4.0は、ダボス会議開催中の1週間で定義されるものではありません。しかし、私たちが確実に良いスタートを切るためには、未来思考と複数のパターンの未来を概念化する力が不可欠です。

実のところ、私たちが望む、そして世界が必要とする将来のシナリオはまだ描かれていません。将来のシナリオにはこれから様々な外的要因がどのように進化するかが描かれますが、強調したいのは、よりよく新しいストーリーを共に描くのは私たち自身であることです。それはとても素晴らしい成果ですが、同時にもうこれ以上無駄にできる時間はないのです。

この記事は世界経済フォーラム World Economic Forumのウェブサイトに掲載されました。

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