2019年がステークホルダーの信頼の年である理由

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2019年4月29日
  • Alison Taylor portrait

    Alison Taylor

    Senior Advisor, BSR

2019年、投資家、規制当局、顧客、サプライヤー、社会市民団体、そして一般市民とどのように信頼関係を築き、維持していくかは、企業が直面する最も差し迫った課題です。

今ほど、ステークホルダーとの関係が重要な時はありません。 1964年、S&P 500企業の平均存続年数は33年でしたが、2016年には24年に減少し、2027年までにはわずか12年になると予想されています。激しい競争、技術革新、そして破壊的技術がその重要な要因と考えられますが、それだけですべては説明できません。企業がその利害関係者からの信頼を得られない場合、企業は収益を維持することができず、成長はもちろん、次第に存在そのものが危険にさらされることになるのです。

更にやっかいなことに、国境を越えて全世界の人が、政府、企業、およびメディアにおいてリーダーシップと信頼関係が危機的状況にあると感じています。 そこには超透明性、地政学的危機、社会的不平等、そしてグローバル・ガバナンスのメカニズムの脆弱性の進行などすべてが関わっています。今後、企業は確固たる基本的原則と独創的で新しいアプローチを介して、複雑な外部環境の中での舵取りを進めていかなければなりません。

2011年BSRは、企業から要望を受けて、慎重に対処すべき課題に関する外部意見に対して、どのように対応していくかをまとめた実践的ガイダンス「ステークホルダー・エンゲージメントの5つのステップガイド」を発行しました。この課題に関する企業の関心はその後も継続しています。2011年の発行以来、このレポートはBSRのレポートトップ5に常時ランクされ、読まれています。この「効果的な社会との関わり合い」は継続して関心の高いテーマであるため、BSRは、8年の間により重要となった利害関係の動向について最新版レポートを発行しました

5 step approach graphic

今、なぜステークホルダーからの信頼がそこまで重要なのでしょうか?

第一に、急速な透明性の拡大によって、企業は自らの発言や活動のすべてが公になる可能性があることを念頭に置いて行動すべきだからです。

情報は、加速度的なペースで入手可能となりました。情報は一次的には技術プラットフォーム上で広められていますが、それが事実か真実かという人々の理解は、複雑に絡まり拡散されます。社会と環境問題についての人々の関心は、ソーシャルメディアを通じて急速に拡大し(最近の例では海洋プラスチック問題)、超地域的なビジネスとコミュニティ間の対立が発展して、グローバルな企業評判の危機を引き起こす可能性も出てきました。

従業員も企業に対して最も声高で力を持つステークホルダーグループの一つとして台頭してきました。彼らはメディアのインタビュー、データ漏えい、請願、あるいは職場放棄までも含めて、雇い主に対して広範囲にわたり真剣な監視を行うようになっています。

もはや雇用契約上の機密保持条項は、この新たな原動力をコントロールするための有効な方法にはなりません。企業と社会を隔てる境界は薄く、透明になってきました。従業員が自らの社会的責任を、雇用主の短期的な利益目標よりも切迫した深刻なものと見なす可能性を念頭に置きながら、企業は透明性、適時性、説明責任を軸とした行動原則を採択する必要があります。

 

環境、社会そしてガバナンスへの配慮が、企業の長期的な業績と高い相関性があることが示されています。

 

第二番目のポイントとして、大手投資家までもが、企業が自社の利害のみを重視することは非生産的であることを言明しています。

BlackRock(世界最大級の資産運用会社)のCEO ラリー・フィンク氏は、2019年の年次書簡で、戦略的なステークホルダー・エンゲージメントが急務であると主張しました。「ステークホルダーに対して目的と責任を果たす企業は、長期にわたって利益を享受することができます。一方、それらを無視する会社はつまずき失敗するでしょう。

一般市民が企業により厳しい基準を課すにつれて、この動きはますます鮮明になっています。そしてこの動向は今日の全労働人口の35パーセントを占めるミレニアル世代が、自らが就労し、購入し、投資する企業に対して新たな期待を示すことにより、さらに加速するでしょう」

この言及は、投資家心理が広範囲にシフトしていることを反映しています。環境、社会、およびガバナンスの課題に配慮することが、長期にわたる企業業績と高い相関性があることが示されているのです。これらの課題に対処するために、一方的なPR主導のアプローチに依存している企業に今後の繁栄は望めません。フィンクCEOの提示する課題に対応するために、企業は重なり合い対立するさまざまな利害に対処するために、適切な優先付けとバランス力を使って、透明性の高い防御策を備えた強固なエンゲージメント戦略が必要です。

第三として、2011年当時、企業はステークホルダー・エンゲージメントを主にリピュテーション・リスクの管理方法の一つとして理解していました。

当時、マッピング課題からの重要な問いかけは「ステークホルダーを信頼できるか?」でした。今日、より重要な問いかけは「ステークホルダーは私たちを信頼しているか?」です。サステナビリティの取り組みを形作る国際的枠組み、特に国連と人権に関する指導原則は、自社中心の利己主義的リスク対応から、企業の社会に対する影響と責任へと転換を促してきたのです。

BSRは、「脆弱性」など新たなステークホルダーとのマッピング基準を重視して、一連の新しいコア・エンゲージメント原則を開発、一方向の情報収集から相互の信頼と理解の構築へのシフトを反映するため、フレームワークを大幅に改定しました。また、数十億人ものステークホルダーに直面し、人々の生活にかつてないほど大きな影響力を持つデジタルプラットフォームなど、企業の新たなビジネスモデルに照らしたステークホルダー・エンゲージメントについても検討しました。

ステークホルダー・エンゲージメントがこれまで以上に困難で膨大なもののように感じられるかもしれませんが、その心配はありません。この最新レポートは、実用性と明快さという当初の視点を維持しながら世界がどのように変わってきたかを網羅するものです。BSRの目標は、企業が事業を営む社会の仕組みをより深く理解し、持続可能な信頼の構築を追求する上で、独自の意義ある方向性を打ち出していくためのお手伝いをすることです。

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