Resilient Business Strategies: Decisive Action for a Transformed World hero image

レジリエントなビジネス戦略

変容する世界に向けた確固たる行動

変容した世界

昨年起こった数々の激動を経て、私たちの世界は今なお変化し続けています。私たちが、深刻な混乱と歴史的変化の最中にあることを、改めて述べる必要もないでしょう。

現在、私たちの世界を再構築している変化の数々は、相互に深く結びついており、思い切った対応が求められています。もはや、ビジネスの中核的な戦略に、サステナビリティ(持続可能性)の要素を盛り込むだけでは十分とは言えないのです。

企業に対して行動を求める声は、この上なく明らかです。つまり、レジリエントなビジネス戦略(resilient business strategies)は、かつてないほど喫緊の課題であり、長期的に、すべてのステークホルダーに価値をもたらす鍵となり、さらに、企業にとっては、機動性と革新性をもたらすものとなるでしょう。

レジリエントなビジネス戦略は、企業とステークホルダーに価値をもたらすだけではありません。公正な世界と、真に包摂的で、持続可能な繁栄をもたらす経済に到達するために必要不可欠な道筋です。

We believe that the business and human rights field will benefit from a framework for the enjoyment, realization, and fulfillment of human rights—a shared opportunity to promote human rights—that moves beyond a perception that the UNGPs’ three pillars are solely about avoiding harm.

なぜレジリエンス?なぜ今、必要なのか?

BSRが本記事でお伝えしたいポイントは次の3つです。

Urge leadership icon

1) 世界の変革に不可欠なものとして、レジリエントなビジネス戦略の策定をリーダーに推奨する

Shared understanding icon

2) 企業と社会における「レジリエンス」の意味について、共通の理解を形成する

Action icon

3) レジリエントなビジネス戦略に欠かせない要素を定義することにより、行動を促進する


レジリエンスは、企業と社会という、切っても切れない関係にある両者が共に成功するために、必要不可欠な要素です。レジリエントな企業と、レジリエントな社会は、互いに関連しながらも、それぞれ異なる特徴と背景を持っています。

レジリエンスは、製品開発、資材調達、能力開発、天然資源の採取と利用、財務戦略、マーケティング・コミュニケーションなど、ほぼすべての企業活動と密接に結びついています。レジリエントなビジネス戦略は、企業の競争と価値提供において、ビジネスと社会の両方が繁栄するための最善の道筋を明らかにするものです。

この1年間に起こった既存のシステムを揺るがす多くの出来事からも、よりレジリエントな社会をつくることが緊急の課題であることが分かります。さらに言えば、COVID-19が壊滅的な打撃を与えたのと同時に、技術の進歩、気候変動、賃金格差、根深い構造的な差別、そして民主主義への不信感といった、私たちの世界を作り変えてしまうような深刻な変化が、他にも多く存在していることを、私たちは理解しています。このような根本的な変化を、共存共栄、健全な環境、社会の結束につなげるには、レジリエンスへのコミットメントを促進しなければなりません。そうでなければ、様々な変化によって、この緊張状態から社会の深い亀裂につながる恐れがあります。

さて、ここまで「サステナビリティ(持続可能性)」という言葉がほとんど登場していないことに触れておきましょう。これは意図的です。もちろん、サステナビリティは、戦略的優位性を図る上での重要な推進力であり、すべての人々に繁栄をもたらす手段であると、今も確信しています。しかし、事業活動において、「ビジネスにサステナビリティを統合する」取り組みは、一定の役割を果たしました。「統合」と言い続ける限りは、ビジネスとサステナビリティが異なるカテゴリーのものとして扱われ続けることになります。今後、企業と社会が共に繁栄していくためには、レジリエントなビジネス戦略が不可欠となるでしょう。

事業活動において、「ビジネスにサステナビリティを統合する」取り組みは、一定の役割を果たしました。今後、企業と社会が共に繁栄していくためには、レジリエントなビジネス戦略が不可欠となるでしょう。

レジリエンスの定義とは?

レジリエンスという用語は、特にCOVID-19のパンデミックにより、広く使われるようになりました。同時に、よく誤解されている用語でもあります。この用語を正しく理解するために、ビジネスにおけるレジリエンスと、社会におけるレジリエンスの両方を考慮にいれ、実用的な定義を示したいと思います。定義にあたり、企業が事業戦略を策定する際に活用していただくため、既存の様々な取り組みを参考にしました。

レジリエントなビジネス

レジリエントなビジネスに必要な取り組みは次の3つです

Changes icon

1) 事業環境の重要な変化の兆候をつかむ


Plans icon

2) 変化のコンテクストを踏まえて、体系的に戦略的計画を策定し、試行する

Resources icon

3) 想定しうる複数の未来を前提に、成功に向けた資源配分と価値創出を検討する


レジリエントなビジネスは、戦略的優位を勝ち取るための準備を可能とし、豊かな社会の実現にも貢献するでしょう。

レジリエントな企業は、その中核、つまり、ガバナンス、製品開発、調達、地域社会との対話に至る全ての活動において、変化する環境に対応できるよう備えています。ここからの章では、レジリエンであるための、経営目標、機能、プロセスに関して詳しく説明します。

リスクとレジリエンスは同時に語られることが多く、レジリエントなビジネス戦略の重要な要素の一つが、リスク管理、リスクの最小化であることは間違いありません。事実、レジリエントな企業は、エンタープライズ・リスク・マネジメントの原則に基づき、それを強化。しかし、レジリエントなビジネス戦略とは、これまでのエンタープライズ・リスク・マネジメントのモデルを超えたものでもあります。リスク管理は防衛的な発想に陥ることが多く、時には、レジリエントな思考がもたらす最も価値ある成果の一つ、ステークホルダーや環境にも便益をもたらしつつ、新しいビジネス機会の創造にもつながるようなイノベーションを見過ごしてしまうことがあります。

エンタープライズ・リスク・マネジメントとレジリエンスの違いは何か?

例えば、従来型のエンタープライズ・リスク・マネジメントでは、ある天然資源の利用に制約がある場合、希少な資源確保の競争をもたらす恐れがあります。一方、レジリエントなビジネス戦略では、製品のデザインを見直し、資源の使用削減へと導くでしょう。別の例として、サプライチェーにおける強制労働に関する風評リスクへの対応方法として、エンタープライズ・リスク・マネジメントの考え方ではサプライヤー工場の監視強化への巨額の投資につながるかもしれません。一方、レジリエントなビジネス戦略では、サプライヤーが労働環境をより生産的で公正なものになるように投資する動機づけを与えるでしょう。さらに政治的リスクにおいては、すべての政党がリスクを回避する行動につながる方法をとるでしょう。つまり、レジリエントなビジネス戦略には、協調をもたらす思考が内包されており、構造的なガバナンスの革新を促進します。私たちは、従来型のエンタープライズ・リスク・マネジメントが無意味だと考えているわけではありません。レジリエントなビジネス戦略にうことが、より長期的な成長をもたらすと考えているのです。

さらに、何がレジリエンスではないかを明確にすることも重要です。何よりも大事なことは、レジリエンスとは、起こったこと対して受動的な姿勢をとらないということです。レジリエントなビジネス戦略では、積極的に未来を洞察することが基本となります。これは、新しく高まる需要と期待に応えるために必要なイノベーションを起こすための確固たる行動のとなります。レジリエントな企業であることは、投資家や従業員にとってより魅力的であり、イノベーションを促進し、企業への期待値が高まる社会における強力なライセンス・トゥー・オペレートとなることでしょう。

レジリエントな社会

レジリエントな社会には、人間の幸福、繫栄と公正をもたらす制度、社会と経済への十分かつ公平な参画、そして環境の保全を可能にするような方法をとりながら、変化と混乱の兆候を捉え、適応する能力があります。レジリエントな社会は、構造的な問題に取り組み、これをチャンスに変え、すべての人が十分かつ公平に参加することにより、これを実現していきます。この定義はHigh-Level Political Forum on Sustainable Developmentによるものです。

不安定な社会において、レジリエントなビジネスを実現することは困難です。これは持続可能な世界における基本原則とも言うべきものであり、国連の事務局長であったコフィ・アナン氏が「崩壊した社会では、企業は成功しない」と述べたことはよく知られています。

社会のレジリエンスには、さまざまな論点があります。以下に示した変化は、企業にとって根本的に重要な課題であり、社会のレジリエンスが試されています。



Environmental disruption
環境破壊、異常気象、自然資本
Technology
新しい技術
Political dysfunction
政治的機能不全と公共政策
DEI
ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(DEI)

社会のレジリエンス

Income inequality
所得の不平等
Social contract
社会契約とセーフティネットの欠陥
Legacy businesses
レガシービジネスの衰退
Pace of change
変化の速度

レジリエントな企業とレジリエントな社会は、そのどちらが欠けても、達成することはできません。2020年、経済・政治・社会、そして医療システムの崩壊が世界中に大打撃を与え、その影響が今も続く中、このことは、何よりも明白でしょう。結局のところ、レジリエンスとはシステムの問題です。たとえば、エネルギー不足や輸送システムにたびたび問題が起こるような都市で、企業がレジリエントなインフラストラクチャを持つことはできないでしょう。もし、教育システムが効率的に機能しておらず、変容する社会に人々が参画する準備が十分に整っていないのなら、企業が、いくら人材に投資をしても、その見返りを十分に得ることは難しいでしょう。その上、政治の機能不全は、金融システムにリスクをもたらし、システム的な不安を生み出すことになります。

レジリエントな企業とレジリエントな社会は、そのどちらが欠けても、達成することはできません。2020年、経済・政治・社会、そして医療システムの崩壊が世界中に大打撃を与え、その影響が今も続く中、このことは、何よりも明白でしょう。

課題への対応:レジリエントなビジネスに不可欠な要素

レジリエントなビジネス戦略において、ビジネス全てではないものの、多くの要素を見直す必要があります。本記事のみで、すべてのステップ全体を説明するには限界がありますが、より良い成果を生み出すために、企業の取り組みを転換する際の実行可能な一連のステップと行動を提案します。これにより、より強固な企業と社会、すべてのステークホルダーに価値をもたらすようなビジネスモデルや製品・サービスの進化をもたらすこととなるでしょう。

レジリエンスとは、企業の受動的アプローチを超えたものです。 以下の要素を見直すことにより、ビジネスに変革をもたらす基礎を築き、変化の兆候を捉えて、公正で持続可能な世界で人々が繁栄できるレジリエントな社会の創造に貢献することを通じて、戦略的優位性を獲得する自信を得ることができると確信しています。

レジリエントなビジネスに不可欠な要素

ビジネスに変革をもたらす基礎を提供し、変化の兆候を捉え、人々が公正で持続可能な世界で繁栄できるレジリエントな社会の創造に貢献することで、戦略的優位性を獲得する自信を持つことができると確信しています。

サステナビリティ:レジリエントなビジネス戦略の基点となるもの

レジリエントなビジネス戦略は、持続可能性の目標と実践として企業が取り組んできた活動から導き出されます。そのため、サステナビリティは、レジリエントなビジネス戦略の結果でもあり、その基点でもあるのです。このような実例は多く見られますが、特に重要なことは、多様な視点、未来志向の考え方、長期的な価値の創造、システムの変化に耳を傾けることです。

サステナビリティの推進により、企業経営にステークホルダーとの対話という概念が導入され、企業がレジリエントなビジネス戦略を構築するためには、多様な視点が必要であることが理解されました。ステークホルダーとの関与は、正しい企業姿勢とみられる場合もありますが、一方で批判的な意見との妥協策と見なされることもあります。しかし、これは真に賢明なる経営姿勢ともいえるのです。企業では、同意見の人々だけが集う会議室で意思決定を行うことがよくあります。労働環境の動向を理解するには、DEI(ダイバーシティ・クイティ・インクルージョン)の専門家の視点を知る必要があります。また、社会的に弱い立場にある人々の代弁者、新世代の人々などの意見を理解することも必要でしょう。最近では、ようやく気候科学者の意見が、取締役会の議論でも採用されるようになりました。意思決定が行われる時に、地域社会の声が耳に入れば、地域社会の混乱は起こりにくいでしょう。要点はシンプルです。変化しつつある世界を理解するには、まさに、新しい社会的・経済的方向性を形成している当事者、又はそれをよく理解する人からの多様な声に耳を傾けることが確実な方法です。

Act, Enable, Influence framework

持続可能な発展は、将来の世代のための機会を維持することとしても定義されており、将来志向の考え方は、レジリエントなビジネス戦略に不可欠です。 ESG投資は、長期的な価値に焦点を合わせ、シナリオプランニングの重要性をさらに強調し、レジリエンスを高めます。これは、TCFDのフレームワークのシナリオに対する信頼においてもあらわれています。

システム思考はサステナビリティの中核であり、レジリエントな経営と社会のレジリエンスの両方に不可欠です。私たちは、食料システム、エネルギーシステム、自然の生態系など、複数のシステムが脅威にさらされ、混乱している様子を目の当たりにしています。現況から鑑みると、既存のシステムに依存した社会ではレジリエンスを実現することは不可能であり、レジリエントな経営も達成が難しいでしょう。異常気象、脆弱なインフラストラクチャ、地域の貧困、公衆衛生の危機、構造的な差別、政治的機能不全、経済的混乱、摩耗した社会的セーフティネットに取り囲まれている世界では、ビジネス戦略はその可能性を十分に発揮することができません。サステナビリティという考え方は、長年にわたりシステムの転換に焦点を合わせてきました。BSRの「行動、実現、影響」というフレームワークは、企業がこの3側面でリーダーシップを発揮することでサステナビリティの目標を達成できるという信念に基づいています。つまり、事業のバウンダリーを守って活動し、バリューチェーンや業界グループのような関係性の中で協働し、その影響力を利用して、公共政策と金融インセンティブの方向性をサステナビリティの推進と一致させる。この考え方は、レジリエントなビジネス戦略と整合するものです。

レジリエントなビジネス戦略が策定される際に、サステナビリティ関連部署とチーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSO)の有するスキル次第で、明確な価値観を示すことができるのです。

Executive Summary


システム思考はサステナビリティの中核であり、レジリエントな経営と社会のレジリエンスの両方に不可欠です。

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